「退職金って、どんどん減ってるんですよね?」
「私が、定年の頃退職金ってあるんですか?」
よく聞かれる質問のひとつです。
たしかに、ニュースでもよく見かけます。
「退職金が減っている」
「昔のようにはもらえない」
「年金をあてにするな」
ニュースやSNSで取り上げられるこの手のニュースは、概ね民間企業の話です。
先生方の退職手当は、民間とはちがう動き方をしてきました。
そして今、本当に考えたほうがいいのは「金額」ではなく、別のところにあります。
民間の退職金は減っています
厚生労働省が5年ごとに調査さいている「就労条件総合調査」を見てみると。
大学を卒業して、定年まで勤めた人が受け取った退職金(退職一時金+企業年金)の平均は、下のグラフのように推移してきました。

20年で、約600万円減!
給料何ヶ月分かで見ても、42.8か月分から36.0か月分へ。
約7か月分の目減りです。
これは、たしかに大きな変化です。
でも、よく見ると「減った時期」が偏っています
20年間で600万円減少!と言っても、その減り方は一定ではありません。
平成15年から25年の10年間で、558万円減ってるんです。
そのあとの10年(平成25年→令和5年)は、1,941万円から1,896万円。
減少ペースは落ち着いています。
「じりじり減り続けている」のではなく、「2000年代に一段下がって、その水準で落ち着いた」
データを並べると、そう見えます。
退職金制度そのものがなくなっている
平均値をみると、次第に減少しているように見えます。
でもこれは、日本の会社員みんなの退職金がだんだん減っていることを表しているわけではありません。
退職金制度そのものがない会社も増えているのです。
- 退職金の制度がある会社の割合:平成30年 80.5% → 令和5年 74.9%
- 従業員30〜99人の会社では、70.1%(3社に1社は制度なし)
- 「会社が金額を約束する制度」から「運用成果で金額が決まる制度」(企業型DC)への移行が進行中
つまり民間では、
①金額の減少 ②制度自体の減少 ③金額が約束されなくなった
この3つの変化が同時に進んでいるわけです。
先生方には、少しイメージしづらい話かもしれません。
公立学校で「退職手当の制度がありません」ということは、起こらないからです。
では、先生の退職手当はどうなっているか
ここからが本題です。
地方公務員の退職金について見ていきます。
総務省の「地方公務員給与実態調査」を見てみると、令和5年度に定年退職した方(勤続25年以上)の、1人あたり退職金平均額は以下の通りです。

教育公務員は2,271万円
民間の大卒平均(1,896万円)と比べると、375万円ほど上です。
ここ数年の推移を見るために、国家公務員についてもみてみます。
内閣官房の「退職手当の支給状況」です。
| 令和2年度 | 令和6年度 | |
|---|---|---|
| 定年退職の平均 | 2,142万円 | 2,160万円 |
4年間で、18万円のプラス。
ほぼ横ばいです。
実際の支給額を見るかぎり、この4〜5年は減っていないのです。
退職金は見直し制度により引き下げられました
”ここ4〜5年、退職金は減っていない”
とても良い傾向に見えます。
しかし、これで喜ぶことはできません。
公務員の退職手当には、こういうしくみがあります。
おおむね5年ごとに、人事院が民間企業の退職金・企業年金を調査する。
民間より公務員が高ければ、その差の分だけ「調整率」を下げる。
つまり、民間の水準に連動して自動的に見直される制度です。
実際に、過去2回下げられています。
| 時期 | 官民の差 | どうなったか |
|---|---|---|
| 平成24年改正 | 公務員が402.6万円高い | 調整率104%→87%へ段階的に引下げ。モデル額2,707万円→2,304万円(▲14.9%) |
| 平成29年改正 | 公務員が78.1万円高い(3.08%) | 調整率87%→83.7%へ引下げ |
| 令和3年調査 | 公務員が1.5万円高い(0.06%) | ほぼ均衡。引下げなし(現在も83.7%) |
平成24年と平成29年で、合わせて2割弱。
定期的な見直しで、退職金は下げられているのです。
「横ばい」と「2割引下げ」は、矛盾しません
ここ10数年、支給額は横ばいだったのに、5年ごとの見直しでは支給額は調整率は引き下げられている。
一見矛盾して見えますが、実は矛盾していません。
制度上の引き下げ(▲14.9%+▲3.3%)を、
給料水準の上昇や、退職する方の勤続年数・職位の変化が、打ち消してきたのです。
減る分と増える分が打ち消しあったということです。

退職金は、これからまた下がりますか?
いちばん気になるところだと思います。
正直に書くと、わかりません。
5年ごとの官民比較で決まるので、民間が下がれば公務員も下がります。
ただ、判断の材料はあります。
- 令和3年の調査で、官民の差は0.06%まで縮まりました。もう下げる余地がほとんどありません
- 民間側も、この10年は下げ止まっています(1,941万円→1,896万円)
- 次回の民間調査は、令和8年前後ごろでしょうか。
「大幅な引下げが来る材料は、今のところ見当たらない」
これが、データを見たかぎりの受け止めです。
でも、断言はできません。
それに、退職金が変わらなくても、物価が上がるということを考えておかなければなりません。
物の値段が上がれば、退職金が減ったのと同じになりますから。
定年が伸びて退職金は減るのか?
よく相談をいただくのですが、
「定年が65歳までになるんですよね?でも、60歳から給料が7割くらいになるんでしょう?そしてら退職金も減るんですか?」
退職金は給料をもとに計算されますから、この心配はごもっともです。
これには明確な答えがあります。
減りません。
たしかに、60歳に達した日後の最初の4月1日から、俸給月額は7割水準になります。
でも退職手当の計算には「ピーク時特例」というしくみが使われます。
減額される前、つまり60歳時点の高い俸給月額を基礎に計算されるのです。
- 役職定年で俸給が下がった場合も、同じくピーク時特例の対象
- 60歳以降に退職しても、退職手当の基本額は当分の間「定年退職」として計算される(通常、自己都合退職は退職金が減ります)
この3つは、知らないまま不安を抱えている方がとても多い部分です。
まとめ
長くなってしまいました…まとめます。
- 民間の退職金は、20年で約600万円減った。ただし減ったのは2000年代で、この10年は下げ止まっている
- 先生(教育公務員)の平均は2,271万円。実際の支給額は、この4〜5年ほぼ横ばい
- ただし制度としては平成24年・29年の2回、合わせて2割弱引き下げられている
- 次の見直しは令和8年前後。官民差が0.06%まで縮んだので、大幅な引下げ材料は今のところ見当たらない
- 定年延長により退職金が減ることはない
「公務員だから、なんとかなる」
私が教員だったころ、そう思っていました。
公的機関に勤めているんだから、老後に困るような設計にはなっていないだろう。
そう考えて不安にフタをしていたわけです。
退職後、FPとして勉強したうえで、
フタを開けて中を見てみました。
思っていたより悪くはありませんでした。
しかし、思っていなかった論点も出てきます。
今回の退職手当は、まさにそれでした。
「退職金が減っているらしい」という漠然とした不安は、データを見ると少し違う形をしていました。
これからも、退職金の制度は変わっていくと思われます。
不安を、なんとなく抱えたままにしない。
数字で確かめて、整理する。
それだけで、ずいぶん軽くなります。
ご自身の退職手当がいくらになるのかは、勤務先の条例と支給率表で決まります。
一緒に確かめてみたい方は、60分の無料相談からどうぞ。
参考にした資料
- 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」
- 厚生労働省「平成30年就労条件総合調査 結果の概況」
- 厚生労働省「平成25年就労条件総合調査 結果の概況」
- 総務省「令和6年地方公務員給与実態調査」第9表
- 内閣官房内閣人事局「退職手当の支給状況」(令和2年度・令和6年度)
- 内閣官房内閣人事局「国家公務員退職手当法等の改正について」
- 人事院「民間の退職金及び企業年金の実態調査の結果並びに国家公務員の退職給付に係る本院の見解について」(平成29年4月/令和4年4月)
- 人事院「生涯設計 第3章 定年後の収入と支出」
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の勧誘を目的とするものではありません。制度の内容は改正される可能性があります。実際の退職手当額は勤務先の条例等により異なりますので、正確な金額は勤務先の教育委員会・人事担当課へご確認ください。税務の取扱いについては、所轄税務署または税理士にご確認ください。



